令和2年度日本学術振興会 拠点形成事業 B: アジア ・アフリカ型
琉球大学熱帯生物圏研究センター

環境DNAメタバーコーディングを用いたマングローブ生態系の全球的解析

研究プロジェクトの振り返りと今後の発展に向けて

研究プロジェクトの振り返り(2020-2023)と今後の発展に向けて:

令和2年度日本学術振興会 研究拠点形成事業 B.アジア・アフリカ型の補助を受けて、琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設が中心となって実施した本研究プロジェクト(概要2020-2023)は、新型コロナウィルスによる活動制限の下、様々な困難の下で交流活動を続けてきましたが、期間延長を得て2023年度の前半に、予定していた交流活動のほとんどを終えることだできました。事業開始の2020年度と2021年度は渡航制限のため、対面での交流は全くできず、オンラインのみでの交流となりましたが、ネット越しにセミナー、研究集会、トレーニングコース(データ解析・サンプリング)を実施し、参加国のメンバーとは頻繁に交流することができました。また、日本から送付したサンプリングキットを用いて、オンラインで説明を受けたメンバーの皆さんが、それぞれの国で採水サンプリングを始めてくれました。そして、コロナ禍での緊密な研究交流があったからこそ、2021年度からは科研費・国際共同強化(B)(マレーシア、オーストラリア、ブラジル、メキシコ等)、e-Asia 国際共同研究(インドネシアとフィリピン)とAJ-Core国際共同研究(南アフリカとセネガル)への応募を準備し、採択されました。また海外でも、2020年にはインドネシアのMohammad Basyuniさんが国内の研究費 Biotropを取得され、また、2020年度当初は広西大学のコーディネーターだったAlison Kim Shan Weeさんが、ノッティンガム大学マレーシアに移動後、国内で2つの研究費(FRGSとCRRP)を取得されました。国内旅行にも制限のある時期でしたが、それぞれの国でやりくりをして、フィールドワークも実現して頂けました。さらに、Alison さんは、マングローブの環境DNA研究で L’Oréal-UNESCO For Women in Science Award 2022を受賞されました。私達の研究ネットワークに参加されている多くの女性研究者を勇気づけた、素晴らしいニュースでした。

そして、2022年4月には、ようやく、日本を含む各国で渡航制限が緩められはじめました。私達もいち早く対面での活動を再開し、2022年4月から6月の間にはマレーシア、インドネシア、セネガルに研究者を派遣(対面セミナー・トレーニングを実施)、2022年5月2022年6月には西表研究施設で、それぞれ2日間の対面ワークショップ(それぞれに10名程度を招へい)を開催、同じく西表研究施設で2022年10月には3週間のワークショップを開催(3名招へい)、そして、2023年3月にはマレーシアで1週間のワークショップと国際シンポジウムを開催しました。6月のワークショップの成果は、環境DNAを用いたマングローブの生物多様性研究のレビュー論文として発表することもできました。これら、新型コロナの感染拡大化の海外との交流事業には、いろんな困難を伴いましたが(例えば、ERFSの申請だとか、来日後の検疫期間だとか、万一時の対応など)、いずれの派遣と招へいについても、琉球大学の事務方(西表研究施設事務、国際課、研究推進課)の皆様の多大なご助力があって実現することができました。ご助力頂いた皆様に心からお礼申し上げます。

図1: 2020-2023年事業の進捗と2024年以降の展開の方向性。

また、2022年度になって、共同研究の方も、ようやく進み始めました。マレーシア、タイ、フィリピン、セネガルなどのサンプルが西表研究施設に集まり、魚類について環境DNAメタバーコーディング解析を行いました。予想通り、日本のマングローブから得られたデータのうち9割ぐらいはリファレンスデータベースのものと一致しましたが、海外サンプルは5-6割しか一致しません。それでも、候補種のリストが出てくると、いろんな発見があります。国(地域)ごとに出現するパターンが明瞭に異なる種や、配列のみ(どの種かは分からないけど)いろんな地域のマングローブから出てくるけれど、正体が分からないものまであって、興味深いデータばかりです。もちろん、データの解析には苦労するところがあり、サンプリングの手法もまだまだ改良が必要でしょうが、この方向で研究を続けて行けば、世界のマングローブの生物多様性について、もっと面白いことが分かるだろうという手応えを感じています。

そして、研究ネットワークも拡大しつつあります。9ヶ国の海外研究機関と始めた研究は、いまや、13ヶ国12研究機関に広がり、いよいよ、全球的と言えるぐらいの規模になってきました。また、SDGsの実現の14(海の豊かさ)の実現に向けて、国連が科学的取り組みを実践する枠組みである UN Ocean Decadeが、Decade Actionとして認定したOBONとMarine Life 2030には、我々の研究プロジェクトも参画団体に入っています。さらに、これらの取り組みと並行する形で、琉球大学熱帯生物圏研究センターでは、マングローブ学の研究機能の強化を目的として、2021年に戦略的ポスト配分を受けて人員を配置し、2022年度には新たにマングローブ学部門を設立しました。今後は、この、日本で唯一「マングローブ」の名を冠する我々の研究部門が中心となって、国内外のマングローブ研究やマングローブの保全に貢献して行きたいと思っています。SDGsとUN Ocean Decadeが目指す2030年は、一つの節目になるでしょう。

2020年度の研究拠点形成事業は今年度で終了です。でも、私達が構築してきた研究ネットワークによる研究は、始まったばかりです。今後、この研究ネットワークがどのように展開するかの具体的な見通しは、まだ立っていませんが、マングローブ学部門が中心になって、様々な形で、今後の展開を実現したいと思っています。国際共同研究の強化を目的とした科研費(国際共同研究強化(B))は2026年度までは続きますので、共同研究の部分は少なくとも、何らかの形で続けられます。また、これまで実施してきたようなフィールドワークのトレーニングやラボワークのトレーニングも、なんとか細々とでも継続し、データ解析部分などは、オンラインで実施できるでしょう。

そして、一つだけ、すでに具体的に決まっているのは、世界のマングローブ研究者が一同に会する最大の国際学術集会であるMMM7(Mangrove Macrobenthos Management Meeting 7)を、マングローブ学部門のメンバーが実行委員会を組織して、2026年に沖縄で開催することです。2023年7月にコロンビア・カルタヘナで開催されたMMM6には、日本人の参加者はほとんどいませんでしたが、多くの参加者が日本で開かれるMMM7を楽しみにしてくれています。2026年のMMM7沖縄では、我々の研究ネットワークの発展を、世界の研究者の皆さんにお見せできることを楽しみにしています。